February 20, 2018

嗅覚を通した学習

「ノーズワーク」という言葉を知ったのは
10年前。
まだ、私がアメリカにいたころでした。

私が勤めていた子犬のデイケアの会社に
いたトレーナーさんが
ノーズワークのクラスを教えていました。

その時は

なんだか専門的なトレーニングみたいだなぁ。
家庭犬のトレーニングとの接点ってあるのかな?

ぐらいにしか思わず
見学しても、いまいち理解できず
「何の役に立つんだろう?」と首を傾げていました。

今思えば
仔犬のデイケアの仕事と
聴導犬のトレーニングのアシスタントと
シニアドックのレスキューの給餌と散歩
で手一杯だった私は
何か新しいことを吸収する余裕がなかったのだと思います。

また、仕事に余裕ができてきてからも
私自身
ルールや細かい手順を
覚えていくのが苦手だったため
「ドッグスポーツ」と言われるものからは
遠ざかっていました。

そんな私が
今楽しいと思うドッグスポーツがあって
相棒犬のトレーニングにも
訪問レッスンにも
取り入れています。

それが「ノーズワーク」です。

犬が得意とする「鼻を使った作業」であるノーズワーク。
もしかすると、本や雑誌などで目にした方も多いかもしれません。
検索すれば、ノーズワークの動画もいくつも見つかるので
自主学習もきっと可能です。

ただ、始める前に少し注意点を抑えておくと
きっともっと楽しめます。
具体的には2点。
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1.安全に行うこと
2.犬にとって「わかりやすい」レベルアップ(レベルダウン)を飼い主さんが知ること
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1については、ここでは詳細を割愛しますが
トレーニング時の「安全性」は
なによりも大事な項目です。
もし、咬傷事故や拾い食い、逸走などの問題があるのであれば
トレーナーと一緒に行った方が楽しくできると思います。

では、あえてこのコラムでノーズワークを紹介した理由は
犬にとっての「わかりやすい」ことについてお話したかったからです。

犬にとって「わかりやすい」とは
人が「犬が自然にとる行動」をトレーニングの目標にすること

私が現在勉強中のノーズワークは
最初のステップでは「犬の自発性」に重きを置いています。

具体的に言うと
「食べ物を探す」行動からスタートします。
ただし「難しい(探しづらい)」場所には決して食べ物を隠しません。

・犬が見つけやすい場所
・犬が取りやすい場所
に食べ物を置くと
犬が「スムーズに見つけて、見つけたものを獲得する」
経験を積むことができます。

ここまで読んで
「簡単な作業でスキルが伸びるの?」
と疑問に思われた方もいるかもしれません。

もしくは
「食べ物を探す作業をしたら、食べ物に過剰に興奮するのでは?」
と心配される飼い主さんもいるかもしれません。

犬にとって
取りやすい場所にある食べ物は
犬は飛びついて取る必要がありません。

犬にとって
わかりやすい作業であれば
作業後に犬は落ち着きます。

難しい作業を「犬ががんばって」やると
一見作業に集中しているかのように見えることがありますが
犬にとって負担が大きいため
作業後に落ち着かない傾向があります。
ずっと食べ物を探し続けたり…
食べ物の気配に吠え続けたり…。

つまり
楽しいノーズワークをしていくためには
「犬にとって、どういう行動を自然か」
「どういう時楽しいのか」
「どういう時にイライラするのか」
を学んでいくことも大事です。

ノーズワークは段階的にレベルアップします。
フードを置く箱を活用し
レベルアップの手順が
「可視化」しやすい仕組みになっています。

「可視化」つまり「見える化」の役割は
トイレトレーニングをがんばった飼い主さんはご存知かもしれません。
実は「見えているもの」は、必ずしも「現状がわかること」ではありません。

トイレの失敗状況を例にすると
飼い主さんが「○○だからトイレを失敗する」と感じる時に
それが、必ずしも本当の原因ではないこともあります。
だから、対策を講じているはずなのに、なかなか失敗が減らない…。

そんな時は
シンプルに
・トイレした時間
・トイレした場所
だけを1週間キロクし、少し間をおいてそのキロクを見直してみて下さい。
「もしかすると、〇〇を変えたらうまくいくかもしれない!」
とうまくいくきっかけが見つかることが多々あります。

ただし、この「見える化」って実はちょっとめんどくさい。
(トイレのキロクも、最初やっぱりちょっとめんどくさいです)

話しをノーズワークに戻しましょう。
私はノーズワークのレベルアップの仕組みは
「犬にとって何がわかりやすいか」を「人に」わかりやすくするための
「見える化」なんじゃないかなと思っています。

10年以上ノーズワークを続けてこられたトレーナーさんたちが
作り上げてきた、すてきな仕組みです。

最後に余談ですが、ノーズワークと
脳と関わりも、少しおもしろい。

見て学んだこと
歩いて学んだこと
とは、ちょっと異なり
嗅覚を通して学んだことは匂いとセットになって「海馬に蓄積」されます。
ノーズワークの楽しかった体験は、記憶として鮮明に残りやすいそうですよ。

ちなみに、私は玉ねぎと卵のお味噌汁の香りがすると
祖父母の住んでいた京都の古い家を思い出して
ちょっとやさしい気持ちになります。

ノーズワーク後の相棒犬のすがた。
これは、落ち着いていると言えるのかな?
まぁ…うれしい時の表現ではあるんです。

参照文献:
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ざんねんな脳
ディーン・バーネット(著)
増子久美(訳)
青土社(出版)2017年
(p163-166)
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